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視座…次世代育成支援対策推進法を考える

日赤労働者746号



少子化が止まらない

視座

 ひとりの女性が生涯(一八歳〜四九歳の間)に生む平均の子どもの数が急速に減少しています。この数字、正式には「合計特殊出生率」といい、その国の人口を維持するためには二・〇八人が必要です。日本の出生率は二五年前から減少し続けており、昨年はついに一・二九人という史上最低を更新しました。このままいくと日本は二〇〇七年から人口減少期に入ると言われています。人口の減少は経済発展や社会保障問題などに様々な影響を及ぼすと考えられており、社会的に大きな関心を呼んでいます。
  二〇〇四年流行語大賞のトップテンに入った「負け犬」。すなわち三〇代以上・未婚・子なしという女性について書かれた本がベストセラーになり、「負け犬」という言葉がこのようにクローズアップされるのも少子化社会の反映と言えるのかもしれません。

 

 

 

男女労働者の「働き方の見直し」が何よりも大切

 厚生労働省の平成一六年版「少子化社会白書」によれば、少子化の原因は結婚・子育て世代の未婚化と晩婚化、晩産化となっています。さらには子育てに対する心理的・肉体的負担、子育てや教育費用などの経済的負担が大きくのしかかっています。白書では「夫婦の出生力の低下」と表現していますが、夫婦が産む子どもの数自体も減っています。「産みたいけど産めない」こうした子育ての負担感が理想の子ども数と実際の子ども数との格差を広げているのです。
  何よりも問題なのは、女性労働者の五割が週四〇時間以上働いていること、生後六か月の赤ちゃんを持つ男性労働者の四人に一人が週に六〇時間以上働いていることなど、あまりにも長い労働時間です。子育て中の労働者が家事や育児に費やす時間の比率はここ何年かでさらに女性側にしわ寄せされ、「男性は仕事、女性は家事」という従前の働き方から「男性は仕事、女性は仕事も家事も」になっています。少子化社会を憂う以前に、労働者が置かれている状況を見直していくことが必要不可欠です。
  急速な少子化の進行を食い止めるため、平成一五年(二〇〇三年)には国や地方公共団体、各事業主に対して子育て支援のための行動計画を義務づける「次世代育成支援対策推進法」が制定されました。この「次世代育成支援対策推進法」では、子育てを一個人の問題として捉えずに、地域や企業も含めて労働者の働き方を見直し、支援していくために「行動計画」を提出することが義務づけられています。
  もちろん日赤の各施設においてもこの法律に基づいて「行動計画」を策定しなければなりません。全日赤はこの春闘で本社に対して要請書を提出しましたが、本社の回答は「育児休業三年を始めとして整備はすでにされている」というものでした。本当の子育て支援を言うならばかけ声だけでなく実態を把握し、「行動計画」できちんと改善させていく取り組みが必要です。

「男女平等」をはじめとした人間らしいルールの確立を

 少子化社会の背景には結婚や子育てに関する価値判断の変化、生き方に関する多様な変化も影響しています。女性の生活や人生設計の変化に対して、社会的条件がそれを支えていないことも問題です。そんな中で国家が「結婚や子育てはこうあるべき」と女性の生き方や働き方を押しつけることは、戦前の「産めよ増やせよ」を思い起こさせます。
  国際的に見れば、男女の賃金格差をなくす、女性の管理職を増やす、男性も家事や育児に参加できる時間や制度を国家として保障するなど、男女平等が進んでいる国では出生率が高くなっていることが多くの調査で明らかにされています。ところが日本では財界の求めに応じて「女性も男性並みに働いてこそ平等」として深夜業の女子保護規定の撤廃など様々な労働強化が押し進められ、パートや派遣など非正規雇用の拡大など形を変えた女性差別も広がっています。
  「次世代育成支援対策推進法」は一〇年の時限立法であることや、罰則規定がないという問題もありますが、職場で人間らしい働き方を実現するために、法律の中身は大いに活用できるものです。女性にとって結婚する、しない、子どもを産む、産まないは個人の自由として尊重されるべきものです。しかしながら結婚しにくい、産みにくい、育てにくいといった日本の現実をどうすればいいのか、みんなでこの法律について大いに学び議論し要求していきましょう。(T・N)




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