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視座…自民党憲法草案のめざすところ

日赤労働者755号



憲法九条をかえる本当の理由は

 今日憲法を変える動きは急になってきており、自民党憲法草案がだされ、憲法を変える手続きとしての国民投票法案も次の国会で準備されています。憲法のどこを変えるかということですが、焦点は、戦争放棄と武力による威嚇の禁止を明記した第九条を変えるということです。そこで、その本当の理由について考えてみたいと思います。
 読者のなかには、「既に自衛隊が存在するし、自衛の問題を考える時、自衛軍は必要だし、自衛隊を自衛軍としてもいいのでは」と考えておられる方もいるでしょう。そこで、自衛隊が自衛軍に変わるとどうなるかについて、歴史を振り返りながら、考えてみることにしましょう。
 戦争放棄の憲法が施行された一九四七年五月から、一年もたたない翌年二月にアメリカの統合参謀本部が決定したのが、「日本の限定的再軍備」という方針でした。そして一九五〇年、朝鮮戦争勃発のもとで日本を占領していた、連合軍最高司令官マッカーサーの指令で強行実施されたのが、「警察予備隊」(自衛隊の前身)の創設でした。一九六〇年、日米安保条約改定の時、それまでの安保条約にはなかった、「日米共同作戦」条項が重要な柱として組み込まれます。この時から、安保条約をテコに、自衛隊を海外での戦争に動員する計画の具体化が始まります。軍備の増強論や海外派兵論は、すべて米ソ戦争を前提にしてのシナリオでしたが、一九九一年にソ連が崩壊して、次にアメリカが考えたことは、「ならず者国家論」でした。ソ連はなくなったが、危険な「ならず者国家」から世界とアメリカを守るために、強大な軍備を持ち続けることが必要だという戦略です。そのためには、国連憲章でも許されていない「先制攻撃」を取り入れ、日本政府はそれへの協力という方向に急転回させられます。
 九〇年代末から二一世紀にかけて、三つの海外派兵法がつくられました。周辺事態法、テロ対策特別措置法、イラク対策特別措置法の三法ですが、どの法律にも「武力による威嚇(いかく)」と「武力の行使」はできないことが書かれています。いくら「解釈改憲」を拡大しても乗り越えられない憲法の制約があります。そこで、この制約を取り除くことが、日本のタカ派とアメリカ側の切実な願望となり、小泉内閣のもとで憲法九条改定論が急浮上してくるのです。つまり、自衛隊をただ海外に出すだけではダメだ、「海外で戦争をやれる軍隊」に変え、日本を「海外で戦争をやれる国」に変えることが必要だということです。自衛隊を自衛軍とする意味がそこにあるのです。

国際的な平和のルール

 現代の世界では、安全保障論の主役は外交です。近隣諸国と紛争が起きたときにも、それをいかにして平和的、外交的な手段で解決、いかに平和友好の関係をきずくかが、安全保障論の大道となっています。紛争の相手国を「仮想敵」と見立て、紛争が戦争に発展するシナリオをかいていたら、その国の安全保障にとって大きな問題となります。
 憲法九条が、国際社会を平和な方向につくってゆくうえでの重要な指針として評価するという動きがいろいろな形で出てきています。昨年七月の国際会議(ジーパック)では、「世界行動宣言」が採択されましたが、その「宣言」にはアジア・太平洋地域の安全保障は、日本の憲法の戦争放棄と戦力不保持の条項が土台となってきたと説明しています。また、アメリカの帰還兵の組織「平和のための退役軍人の会」が大会で、「日本の憲法九条が危機にひんしている」ことを心配して、九条を支持するという特別決議を採択しました。
 イラク戦争は、国際ルールを破って始まりましたが、今国際的な平和のルールを守ろうという世界的な運動の発展の転機になっています。世界が九条にそのルールの元をさぐっているのです。そのことを誇るべきではないでしょうか。憲法を守るために、私たちにできることのすべてをやり抜きましょう。




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