JRCSWU

ひとりじゃない、組合には仲間がいる。そして1人1人が立ち上がる
首都圏青年ユニオンの活動から学ぶ

日赤労働者766号



 〇六年十一月、大手外食産業のゼンショーが経営する牛丼チェーン店「すき屋」で働く二十代のアルバイト青年六人が、労働組合を結成したという報道が各メディアの紙面を飾った。彼らは同年七月末に「店舗のリニューアル」を理由に解雇され、『首都圏青年ユニオン』に加入、交渉の結果、解雇撤回と過去二年に及ぶ未払い残業代、更には解雇中の職場復帰までの休業手当を支払わせた。
 いま、財界の思惑により、若者を中心としてパート、アルバイト、派遣などの不安定雇用労働者が急増し無権利状態で働かされている。医療・福祉の現場においてもその傾向が強まっており、また若者の労働組合離れが叫ばれるなかで、若者を組織し精力的に活動している『首都圏青年ユニオン』に話をきいた。

企業・産業にとらわれない労働組合

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労働相談を受ける河添書記長

 首都圏青年ユニオンは、二〇〇〇年に病院の夜間事務にアルバイトで働く若者が病棟の閉鎖に伴い職場を追われて地域の労組に相談し独自に組合を結成したのが始まりである。その後、若者ならどんな働き方でも、一人でも入れる個人加盟の労働組合を結成し、略称も「首都圏青年ユニオン(以下ユニオン)」とした。
 いま二十代を中心に、派遣、請負、パート等の不安定雇用が急増する中で、職場では声をあげづらく、相談できないで孤立しがちな労働者を1人でも組合員に迎え、それぞれの企業と対等に交渉できる場を作れば面白いという発案からできた。又、労働組合の敷居を低くし組織化しやすく、より多くの人に労働組合という存在を知ってもらう、という狙いもある。
 ユニオンは東京の豊島区大塚に事務所があり、専従者三名が常駐している。組合員は現在二八〇名でアルバイト、派遣、請負、正規職員等二〇代から三〇代の若者、学生がいる。上限は三五歳までとしているがこだわっていなく年齢が高くてもいいという。
 組合費は収入に応じて設定しており、無収入(学生など)で五百円からと低い。その為、組合費だけでは専従をおくことが出来なく『青年ユニオンを支える会』というものを弁護士、教員の大人達でつくり財政支援を得ている。
 ユニオンはある特定の産業や企業別に別けて活動するのではなく、地域で分会をつくり活動するというシステムをとっている。

労働相談はまず話を聞く

 ユニオンには日々、多くの労働相談が寄せられる。まず多いのが電話での相談。次にインターネットのHPからのメール相談、組合員の友人の紹介、直接事務所に来る駆け込み相談まで様々である。
 加入が必要であれば事務所に一回訪問してもらい、じっくり話を聞く。信じられないことだが相談の多くは不当解雇、残業代未払い、社会保険未加入と言った普通は労基法で最低限守られていなければならないものばかりだ。
 事務所に来る相談者に労働組合というのは法律で認められた組織で、会社と対等に団体で交渉出来ることを話す。そして相談者に、どうしたいのかを聞き、希望すれば組合に入ってもらい交渉へと発展させる。
 パワハラやセクハラのような複雑な問題を抱えて来る場合も少なくない。相談によっては上部団体(公務公共一般労働組合)の専従と相談したり、専任の弁護士や社労士に協力を仰ぐ。

参加型の団体交渉

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伊藤委員長

 会社との団体交渉が決まれば、日程と場所を全組合員が登録するML(メーリングリスト)に流す。ユニオンの特徴の一つである『参加型の団体交渉』だ。MLに流された情報を見た組合員が時間を合わせ、一人の組合員の団体交渉の場に集まってくる。団交の時間は意識的に夜を設定し、昼間に働く多くの組合員が参加しやすくしている。
 伊藤委員長は「団交に参加することで、組合に入るときに1人だった組合員が様々な職種の組合員に会い、問題を解決していることに触れて、自分の抱える問題が自分一人ではない事を知り、解決するにはどうしたらいいか考える学習と成長の場になっている」と言う。

全組合員が情報を共有

 職種も経歴もバラバラでお互い全く知らない人の団交に三十分程度の打合せの後に交渉に臨むという。交渉内容を理解できているのかと質問したところ、事前のMLで組合員全員が情報を共有しているとのことであった。
 このMLには、だれでもなんでも発言(メールを送れる)する為、役員からの一方的な情報だけでなく、組合員の意見も見ることができる仕組みになっている。インターネットを介し誰もが自由に参加できるコミュニティを創っているのだ。
 又、地域分会の行動や学習会も全てMLに流す。分会だけで楽しむのではなく、全員がどんなときでも参加できるようにする為だ。
 そして月一回、組合員でつくる組合誌『ニュースレター』を発行したり、学習会、交流会といったものがある。しかし組合誌の編集や交流会の参加は不安定な就業の組合員が多いこともあり、指名や動員はせず強制をしない。時間の合う組合員がその都度、興味のある企画に自主的に参加、企画できるようになっている。そして企画に参加した組合員は事後MLに感想を流す。
 この事が労働組合活動への不透明性を限りなく透明にし、組合への理解を容易にしている。
 伊藤委員長はこのように言う。「団交参加やMLを通じて組合員は一人ではないんだと思えるようになり、解決するために共に考えるようになる。又、団体交渉申入書を当事者に会社へ送ってもらい、残業代の計算も本人がして、組合員である意識を持ち、又、専従に任せっきりにならないようにしている。権利を学ぶことで自身を守る意識を持たせ、それを様々な組合員と共有し世界が広がることで楽しく自主的に組合活動に関わるようになる。それが組合員の脱退の少なさにつながっている」

泥沼にブルーシートを

 ユニオンでは、労基法や派遣法、労働審判制度など今の法律を十分活かして問題解決を行っている。しかし、こうした個人加盟労組ではストライキを構えて要求実現を迫ることはない。そのことに対して、河添書記長は「現在の若者の労働実態は劣悪な泥沼の状態にある。僕らはそこにせめて立つことが出来るようブルーシートを引こうじゃないか。今よりもましな生活を考えようじゃないかと訴えるのだ。又、多くの権利を知らない若者がユニオンを通して労働組合活動を知ってくれたら良いと思う。もし組合員がユニオンを離れたとしても、権利主張したり、組合を創ろうと考えたり、何らかのかたちで活動に携わってくれたらいい」と語った。

納得できない解雇理由

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山田書記次長

 そうした現在の若者が置かれている無権利状態で劣悪な実態を組合員から聞くことができた。
 治験のサポート会社に一年の契約社員で勤めて、三ヶ月で雇い止めになった臨床検査技師の資格をもつ女性(二十八歳)は言う。
 「会社に『こちらが求める能力に達しない』と言われ解雇された。友人の紹介でユニオンに入った。団体交渉で会社は何が悪くて、解雇したのか具体的理由は何も示さなかった。しかし会社は頑なに解雇の正当性を言ったので弁護士を紹介してもらい労働審判制を使い職場復帰はできなかったが解決した。組合活動は、サークルみたいでみんなと交流出来るのがいい」

研修名目の偽装請負

 自動車部品工場のマシーンオペレーターとして働いていた男性(二十八歳)は、「求人票に労務管理での募集、月給二十五万円と書かれてあり、面接に行き採用された。しかし、研修の名目で別企業の工場にて請負業者として生産ラインの仕事をさせられた。実際は請負先の工場の正社員が指揮命令する、『偽装請負』(派遣法の直接雇用義務等を逃れるため請負に見せかける)である。一年で正社員になれると言われそれを信じ、時給千円、土日十二時間交替、平日三交替で働いた。工場の都合で仕事が無いと時給なので手取りが少なくなる。職を失う怖さで文句も言えない。有休さえなく工場閉鎖に伴い他の工場に行くか辞めるかと言われ、自身は会社に都合の良いコマ扱いされた怒りが湧きネットで見つけたユニオンに相談。現在交渉中。組合活動は、最初めんどくさいと思った。でも他の人の団交を見て勝手な会社や企業に怒りをもち、自身の交渉が終わっても社会の問題としてユニオンに関わっていきたい。労働組合の『1人でないこと』は本当に重要」と語った。

取材後記

 青年ユニオンは、企業内組合の全日赤とは違い、企業や産業を問わない個人加盟の労働組合であり活動スタイルが違うのは当然である。また組合員も企業内組合のように「みんなが入っているから加入している」のとは違い、何らかの問題に直面して組合に加入している点においても違いがある。しかし活動内容において学ぶべき点が大いにあると感じた。
 労働組合は「数の力」が絶対的に必要であり組織拡大を第一義的に取り組まなければならない。その場合において「みんなが入っている」も必要である。ただそれだけでは「力」にはなりえない。労働組合についての学習が必要だ。青年ユニオンにおいても自分の問題が解決すれば去っていくのではなく、引き続き組合員として活動しているのは経験を通じて労働組合の大切さを学ぶことが出来たからであろう。
 また情報を共有するという点においても学ぶ必要がある。執行委員会の一方的な伝達だけでなく労働組合が、いま何に取り組んでいるのか、それに対する組合員の意見はどうなのかをみんなが知ることで「力」に結びついている。仕事が忙しくなり職場集会や全体集会を開くことが難しくなっている単組は少なくないと思われるが、ならば意思統一を行う別の方法を模索する必要があると感じた。
 そして、何よりも労働組合が組合員や職員の労働相談窓口となり得ているかである。職員1人1人が何か不満に感じたことや理不尽な行いをされたときに「労働組合に相談しよう」という雰囲気を作り出さなければならない。そのためには労働組合の存在をアピールすることと同時に、職員が
使用者の攻撃に気付き「何か変だ」と思うようにしなければならない。日頃の宣伝の強化が重要である。
 最後に、労基法など法律を武器にたたかうことが重要であること、同時に全日赤ではストライキを構えて要求の前進を図れることを再確認した。また派遣や請負などが進む中で、企業内にとどまらず、下請け労働者を含めた活動が今後重要となってくると感じた。

 




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